万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

非生産的なGWを過ごしてしまいました

 もうゴールデンウィークは終わってしまったのだから、不規則な生活を改めなきゃあいけないんだよ、神無月君、と僕は言った。しかし彼はパソコンを眺めたまま動かない。何が楽しくてそうパソコンばかり見ているのかなあ、目がチカチカしてたまらないよ。だいいち同じページを開いては閉じてを繰り返してそれの何が楽しいのかな。僕は思うね、君のその行動はきっと君が暇を持て余していて、しかし暇をつぶそうにも能動的な行為をしたくないからしているんだ、ああなんたる怠惰、なんたる傲慢、時間を有効活用したいというのが君の口癖だと言うのに、まさに君の今の姿は時間を浪費する姿そのものではないか、聞いて呆れるよ。僕は彼に言い続けるも彼は僕の方を見向きもしない、ずっと画面を見続けている。まるで憑き物に囚われているようだ。僕はね君のことが心配だから言っているのだよ、君がそのままなにも生産的な行動ができずに一日を過ごしたらきっと後悔するって分かっているからね、僕は君のことなら何でも知っているんだよ、なんだって僕自身なんだからね。

 

 GWが終わって、5月病になるのかなあと思っていたのだけれど、そうでもないようで、僕としては忙殺されるような空間に身をおいた方が憂鬱な思考を追いやれるのだろう。GW中の悪い日なんかベッドから一歩の動けないときもあったのだから、なかなか強制力というものは馬鹿にはできないね。僕は昔から期限が迫らない限り行動を起こさない人だったし、そういう制約的なものがなければ行動できないタイプなんだろうね。でもその制約だってきっと自分で作ったものじゃあだめなんだ、これは本当に僕の駄目な部分を象徴しているのだけれど、自分に課した制約なんてものはあってないようなもので、ついつい甘えては期限を延ばしてしまったりする。自分のこういう部分が嫌だというのに、一向に治そうとしないのは自分でも馬鹿らしい。とことん自分には甘いんだ。

 

 ところで神無月君、君は新作を書いていると言ってたのになぜ全然筆が進んでいないのかな、結局GW中に一万字も書いていないじゃないか。ネトフリでシャーロックを観て、本を読んで、同人RPGをして、それで終わり? 執筆はどうしたんだい、と僕は言った。「別に義務じゃあないのだからするべきわけでもないでしょう、僕にだって僕の都合というのがあるんだよ、だからなかなかできないんだ」はあ、そう言ってるわりには新作の同人RPGをついさっき三週目をクリアしてエンディング回収も済ませているじゃないか、その労力を執筆には回せなかったなかなあ、いや別に非難しているわけじゃないよ、僕にだって怠け癖はあるし、君の気持ちも分かる、だけどね少なくとも一日に一文字くらいは書いてもいいんじゃないかと思うんだよ、だってね君の中にはもうある程度の物語の構想があるわけじゃないか、その構想だって常に思い浮かべていないと崩れてしまうんだよ、特に君の場合はプロットを書きたがらないからね、物語のそのほとんどを頭の中で構築して完結させる悪い癖があるからね、前作だってそうだったじゃないかだから後半になるに連れて息切れを起こして更に描写が必要な部分を分かっていたはずなのに書かなかった、書こうとしなかった……辻褄合わせが面倒だからと言ってね、それじゃあいい作品は作れないよ……いや、分かっているよ君はいい作品を作りたいんじゃなくて満足のいく作品を作りたいだけで、あくまで自慰行為の一つだってことくらいはね、でも消化不良の作品を書いたところでそれで満足できる君じゃあないだろう、僕には分かるんだよ、何回でも言うよ、君は僕自身なんだから。

 

 積読していたファストアンドスローを読んだ。良い読書経験になったと思うし、きっと統計の勉強にもなったと思う。僕は回帰性を意識して生きるべきなんだろうと思った。今はツルゲーネフのはつ恋を再読しているのだけれど、はつ恋ってこんなにも描写が美しい作品だったかしらん。まあ僕が最後にはつ恋を読んだのは高校生のときだったわけで、すでに5年も昔の話なのだから忘れていて当然なんだけどね。今だってこうして読んでいるというのにどんな物語だったかおぼろげだ。でも再読ということもあってか、読めば「ああ、こんなシーンもあったなあ」と思うので、やはり印象に強く残っている作品ではあるのだろうね、どうでもいい作品は再読しても(再読することもほぼないのだが)シーンを思い出しづらいから。さて、はつ恋を読み終わったあとには何を読もうかなあなんて考えている。別の本への浮気だ。でもそういうものだよ、プラトニックな恋愛を読んでいるからこそ浮気してみたくなってしまうんだ。僕にはそういう反対のことをしようとする癖があるからね。今の所敬愛しているドストエフスキーの悪霊でも再読しようかなあなんて思っている。今でも「生は苦痛です、生は恐怖です、だから人間は不幸なんです」というキリーロフの言葉は覚えている。再読しなくとも覚えている言葉なんだからやはりこの言葉は僕にとって大切な言葉なんだ。大切だけど、反抗したい言葉でもある。人間が不幸ならなにが幸福なんだ、人間は幸福になれないのかってね。でもキリーロフはこう言っているけれど、ドストエフスキーは書簡で人生は幸福だとも語っているからなにがなんだかわからないよね。人間と人生じゃあかなり違うと思うけれど、しかし非常に親しいものでもあるんだ。でも同時に相反する二つの意味を持っているものなんだよ思うよ、人生ってやつは幸福と不幸を同時に内包しているんだ。パルマコンなのさ。立場や見方、他にも様々な要因があって、それぞれの瞬間に人生というやつはその姿を幸福にも不幸にも変えるんだよ。まさに幽霊みたいなやつさ、ふわふわして、掴みどころがなくて、不安定で、僕の小さな力じゃどうすることも出来ないやつなんだよ。でも人生を投げ出すことは、投げ出すことを考えてみてもなかなかどうして実行に移せないのだから、きっと手放してはいけないものだってことを、深い部分では分かっているのだろうね。どれだけ人間に絶望しても人生だけは手放してはいけないのかもしれないね。死というのは終わりであり、永遠の停滞を意味することだからそこには幸福も不幸もなくて、きっと虚無しかないんだ。幸福の分だけ不幸になってしまう、逆もまた然りな人生だけれど、それでも幸福を感じられるその事自体に価値があるのだから停滞よりはいいんじゃないかと思うよ、だから生きるべきなんだ。さてちょっとだけ自分の書いてきた文章を眺めると、ぎゃあ、まるでメンヘラみたいじゃないか。嫌だなあ、僕はメンヘラじゃないからメンヘラみたいに思われたくないなあ。

 

 ところで神無月君はいったいどんな話を書こうとしてるのかなあ、いやまあ気になったんだよ、君の筆があまりにも進まないからね。一体何を考えているんだい。「何も考えちゃあいないんだよ、何も考えてないんだ。君が聞いているのは今僕が何を考えているか、ということだろう? あるいは僕は今、君に対して煩いなあと思っているのかもしれないし、やはり何も考えてないのかもしれない。聞くだけ無駄だよ」いや、そうはいっても人間というのは考える生き物なんだからなにか考えているんだろう?「煩いなあ! だいたいなんだよ、口を開けば人間、人間って、ああ僕だってもちろん人間だけどさあ、常にその事ばかり考えていたくはないんだよ。頭が割れてしまう!」そう怒らないでくれよ、怒ったところでなにも変わりはしないんだからさ。なあそろそろ教えてくれないかなあ、次回作はどんな話にするかって、僕だって気になるんだよ、君の中じゃあまだまだ構想の段階かもしれないけどさ、ある程度の形をとってきてはいるんだろう? ならそれを言語化して形に存在をあたえなくてはならないと思いはしないかな。「……一理あるね。まあこれはまだ構想の段階に過ぎないことだけれど、僕としては惨めなセックスを書きたいと思うよ、傷の舐め合いみたいな、惨めで、残酷で、だけど局所的で刹那的な救いのあるセックスをね。前作の主人公がKに誘われたけれどできなかったセックス。でもさそんな話を書いてしまったらそれはR18になるわけじゃない? だとすればどこに公開しようと思うわけ。まあ書いてからそんなことは考えればいいのだけれどね。別に公開できる場はたった2つというわけでもないし。で、セックスのこと以外にも書いてみたいことはいくつかあるのだけれど、やっぱりセックスがあるのだから愛を書いてみたいと思うよね、はつ恋みたいなプラトニックな愛をね。とにかく前作では描けなかったマグマのように熱くて、重くて、煌々と輝く愛を書いてみたいんだよ。人間なんて畢竟生物なのだから、性愛について掘り下げるのは人間について掘り下げるのと同義なんだよ。だから僕は愛を書いてみたいんだ」なるほど、でも筆は進んでないようだね、その理由はあるのかな。まあ君のことだからどうせゲームに忙しかったんだろう?「まあゲームばかりしていたのは認めるよ。セキロの修羅ルートめっちゃ大変だったし、なんかスマブラでジョーカー参戦しちゃったし、アサクリが無料で配布されてたし、まあいろいろとあったからね。でも物語を書く上で悩んでいることもあるんだよ、僕はまだ勉強不足だなあってね。今書いているのは主人公と脳神経外科医(まあ実質精神科医なのだけれど)の対話なんだけれどね、その脳神経外科医が哲学的な話をするんだよ、僕の場合登場人物は勝手に話すし、勝手に動くからね、どしようもないんだ、それで今はフロイトに関する知識を吸収している途中なんだ。他にも主人公は精神分析が趣味でね、精神分析に関する文献も読もうとしているところなんだ、まあフロイト精神分析の大家であるからね」へえ、勉強してるってこと? でもどうせ家ではゲームばかりしてるんでしょ、僕は分かるんだよ君のことはね。だって僕は……

 

 もう今週末はコミティアか。時の流れは早いなあ。