万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

2018年に寄せて(あけましておめでとうございます)

 2018年ももう終わりが近づいている。この記事を書き始めた23:30現在、隣の部屋から紅白の音が聞こえてくる。僕は騒がしいと思っている。騒がしいと思ってはいても、僕にはそれを止めることができないから、いつものようにヘッドホンを被り、外界の音を遮断する。僕だけの空間。ヘッドホンからは「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」がパイプオルガンの荘厳な響きで聞こえる。バッハは、寒い夜に聞くと気分が落ち着く。バッハの曲を初めて聞いたのは何歳のときだっただろうか。恐らくとても小さな頃だったと思う。何か特別な所へ連れて行かれて、その場所で聞いた。昏くて、でも輝いていたそんな場所。記憶が曖昧だからかその時の記憶は靄がかかったようでどこか危うく、それでも綺麗だった。その特別な場所は教会ではなかったはずだ。僕の両親は、クリスチャンではなかったから。クリスマスも特にお祝いという風ではなく、ただ、子供にプレゼントを贈るだけ、そんな日だったから。プレゼントと言えば、僕が唯一思い出せるプレゼントに黄色い電車がある。ドクターイエローと呼ばれる車両だ。僕は幼い頃、電車にものすごい執着を持っていた時期があるらしく、その頃にサンタにねだったものらしい。今ではそのドクターイエローのおもちゃは現存していないのだけれど、今でも僕の記憶に残っているのだから大切ななにかだったのだろうか。でも、ドクターイエローとともに思い浮かぶのは、外の景色。暗い、寒空の下で、僕が詰問されている景色。たしか、あの時僕は……そう、僕はサンタからのプレゼントを盗み見したのだ。クリスマスから数日前に、父親に部屋に隠してあったそのドクターイエローを発見したのだ。その事を僕は、夜、父親が帰宅するのとともに彼に聞いた。彼は恐れたような、怒ったような不思議な表情をして、僕を外に連れ出した。それから先のことは何か問いただすように言われた以外よく覚えていない。でも、あまり良い記憶ではないのはたしかだ。

 年末だからだろうか、いつにもまして目が冴える。今日はコミケに行き、肉体疲れているというのに。ああ、確かサカナクションにバッハの旋律を夜がなんとかという曲があった気がする。その曲のことを無意識に思い出して、その中身を模倣しているのだろうか。でも、僕がサカナクションの曲を聞いたのはもう何年も前だから記憶も曖昧で、メロディすら思い出せそうにない。それにしても冷える夜だ。

 ここを書いている途中で年越しそばを食べ始める。天麩羅蕎麦。天麩羅は恐らく近くのスーパーで買ったであろう既成品で、衣が厚く、歯ごたえが悪い。硬いと思ったら、妙に軟らかくて気持ちが悪い。ゴムを食べているみたいだ。それに、今は海老天を食べているのだけれど、その海老が細く、衣の半分くらいの太さだ。これでは海老を食べているのか、衣を食べているのか分からない。でも、どちらかと言えば衣を食べているのだろう。海老天なのに。次に食べるのはイカ天。こちらを食べて改めて思ったのだけれど、油が悪いのか胃もたれしてきた。吐きそうだ。それでも、蕎麦は半分程度しか食べていない。僕は天麩羅と蕎麦を交互に見て、ため息をつくと、蕎麦をかき込んだ。蕎麦もすっかり伸びてしまっていて、あまり美味しくない。蕎麦味のする何か、柔らかいもの。僕は一体何を食べているのだろう。天麩羅蕎麦を食べていたはずなのに、ゴムと蕎麦味のなにかを食べている。気持ち悪い、吐きそうだ。

 思い返すと短い1年だと思ったのだが、8月頃は長い1年だなあとか思っていたので、長くも短くもない1年だったのだと思う。時間は流れるものだから、いや、僕自身が時間という軸に沿って移動しているから、その両方なのかな。だから過ぎ去った後だと短く感じてしまう。

 過去を想起することは痛みを伴うことだと思う。良い思い出はもちろんあるのだけれど、嫌な思い出がその姿を強調して現れるから。まるでお前の過去は悪いことしか無かったと言いたげに。だから僕はあまり過去を思い返すことが好きではない。でも人は過去があって、痛みを経験することで、成長する生き物だから、たまには過去を想起することも必要なんだと思う。だから、2018年を改めてみたい。

 生きていく中で様々なことが身に降りかかる人生。思い返してみると今年だけでなく、今までも色々なことがあった。だから今の僕があるんだけれどね。さて、今年は何があっただろう。比較的大きなことで言えば、ショート100への参加があると思う。ちなみにショート100はショートショートを複数人で100作品作り上げようという企画だ。創作初心者の僕を受け入れてくれたメンバーの方々及び、僕のツイートを見て声を掛けてくれたさつきちさんには感謝しかない。

 さて、ここまで書いて時間はもう12時を30分も過ぎている。もういくつ寝るまでもなく正月だ。

 他に何があったか思い出そうとしているのだけれど、どうも今年――いやもう去年か――の後半のことしか思い出せない。それに、そろそろ眠くなってきた。いや、眠いから思い出せないのか。頭が朦朧としているから。……そろそろ締め括ろう。

 

では、改めて。

あけましておめでとうございます。

今年もどうぞ、よろしくお願い致します。