万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

2022-01-01から1年間の記事一覧

2022年に寄せて

2022年が終わる。今年、僕は一体何が出来たのだろう、何を残せただろう。人生に意味を与えるようなことを成せただろうか。果たしてかな今年を振りかっても大した起伏もなくただただ平坦に続く道を惰性で歩んでいたようにしか思えない。新作を完成させる心積…

こうなったら人はもう終わりだね。

実家に帰ると家が物で溢れてた。祖母がまた色々な物を生協で買ったらしい。ある一部屋は服と机と椅子とダンボールとよく分からないオーディオプレイヤーでいっぱいになり、また寝室には道が見当たらない。まるで獣道だよ、物のジャングルに現れた荒れた道と…

12月の言葉

20221203, Sat W杯で湧く世間の一方で僕はサッカーに全く興味を抱けないでいる。日本がどこどこに勝っただとか、奇跡のような勝利だとか、たとえ過去に人生の一瞬が触れた同窓の人間が活躍しているとしてもどうでもいいと思ってしまう。もっともスポーツが…

11月の言葉

20221103, Thu この生命を存続させる意味を問う日々、なぜ自分の人生に保険を掛けなければならいのだろうか、それが責任だと人は言ったが、自然の摂理に任せて生命を終わらせることもまた責任の一つの取り方ではないのだろうか。なぜ、命を縛られているのだ…

10月の言葉

20221001, Sat 頭蓋の裏側にべったりと張り付いて落ちない粘性の憂鬱。何も良いことがないと思いながら過去に記憶を飛ばし、外に視線を遣ることを恐れる。部屋の隅に小さくうずくまりながら身体を震わす子供のように、身体を折り曲げて内側に祈りを捧げる。…

9月の言葉

20220901, Thu 急にベケットの『いざ最悪の方へ』を読み直したくなった。表題作はベケットの言語への絶望が感じられて、とても好きなのだ。意味の無限遠の反復、崩壊しかかったエクリチュール、励起する電子のように様々な位相をとる言葉、言語表現の極北に…

執着と金銭と壊れていく人格

先日まで実家に帰省していた。母は更に太り、祖父は物忘れが酷くなり、祖母は偏屈さに磨きがかかっていた。時間の経過がそうさせるのか、あるいはこの三人で暮らしていることが原因なのかもしれない。母と祖父母、特に母と祖母の関係性は断絶の一歩手前で、…

8月の言葉

20220802, Tue 動くものの気配に蒼惶として飛び去るアブラゼミ。ふらふらとした軌道を目で追い、次はどこの木に留まるのだろうかと、なんとなく考える。人通りの少ない、安心できる場所にたどり着くことは可能なのか、番を得ることはできるのかとどうでもい…

7月の言葉

20220702, Sat 楽しみにしていた『秘められた生』の新訳がなされないことを知り、残念に思う。キニャールの言葉はいつだって美しく、示唆に富み、読み返すたびに新たな発見を与えてくれる。中でも『秘められた生』は僕にとって大切な本の一つである。 本棚か…

6月の言葉

20220601, Wed 時に自分が存在してしまっていることに気付き、ハッとする。自分の生がまるで他人事のように思えるのが通常で、時間は流れるように進むが、まれに別地点にワープしたかように自分であることを思う。指先を切り膨らむ赤い玉を見る時や、冷たい…

5月の言葉(日記的なやつ)

20220514, Sat TWININGSのレディグレイが好きだ。柑橘系の爽やかな香りが心地佳く、渋味の少ない味わいはバターをふんだんに使った焼き菓子に特に合う。家には常にティーバッグが常備されており、旅先にでも持っていくほどだ。今も京都のビジネスホテルの一…

他人感/フルグラ、あるいはパフェの底の部分

自分の人生がなんだか他人のもののように感じる。特に最近、その感覚が強くなっている。こうしてキーボードを叩いている今も自分が自分の手を動かしているのではなく、映画のワンシーンでキーボードを叩く指を眺めている感覚に陥る、虚しい。今ならどのよう…

好み/やさしい世界

食べ物の好みの論争の一つに粒餡か漉し餡かというものがある。僕はどちらかといえば粒餡派ではあるのだけれど、かといってどのような食べ物に対しても粒餡がいいというわけでもなく、個人的には大福やおはぎは粒餡、一方で饅頭やあんころ餅は漉し餡が好みな…

『ベオグラードメトロの子供たち』を読んで。(20220311追記)

久しぶりに感想記事を書こうと思い、筆を取った。プレイした作品は隷蔵庫(summertime)様の『ベオグラードメトロの子供たち』、通称べおちる。ただ、断っておくが本作をプレイしたのは昨年の8月——なんと暑い夏だったか!——で、ここにこうしてプレイ当時の心…