万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

こうなったら人はもう終わりだね。

 実家に帰ると家が物で溢れてた。祖母がまた色々な物を生協で買ったらしい。ある一部屋は服と机と椅子とダンボールとよく分からないオーディオプレイヤーでいっぱいになり、また寝室には道が見当たらない。まるで獣道だよ、物のジャングルに現れた荒れた道と思えぬ道。捨てられない、まだ使える、必要だからと嘯き生活圏を圧迫しているそれらを大切にする様はゴミを集める烏だね、彼女には綺麗に見えているかもしれないけれど僕たちにはガラクタにしか見えない。ゴミ屋敷まであと少し。

 一方で母の部屋は物が減り、執拗なミニマリズムに支配されている。彼女にとって大切なアーティストとキャラクターのグッズはそのままだったけれど、その他の物は消え去っていた。大きなテレビと小さな机と非一体型のソファがある部屋は生活感が薄く、まるで冴えないインテリアデザイナーが躍起になって小綺麗に見せようとしたモデルルームのよう。彼女は祖母への愚痴を常に吐き続け、なんで物を買ってしまうのか、なんで捨てられないのかと僕に同意を求める。極端だなあと思う、物を集め続ける祖母と捨て続ける母。きっと一生分かり合えないのだろう、根本的に性質が異なっている。

 母の吝嗇家気質には磨きがかかり、少しでも節約しようと躍起になっていた。だけど健康のためとオーガニック食品を買い、こっちは身体に悪い物が入っているからと高い(彼女の言う身体に良い)調味料を買ったりと矛盾した行動をとっている。砂糖は身体を冷やしてしまうからと言いながら甜菜糖を使う彼女はしかし砂糖が大量に入っている菓子を食い、パンを食い、避けようとする素振りを見せようともしないのはどうなんだ? あなたの主義主張は結局その程度のものなんですね。身体に良いイオン水なる物を飲ませようとし、それに嫌悪を示すと機嫌が悪くなる。なんで分からないのかな! 何でもかんでもその水が健康にしてくれると思い込んで、根拠のない救いを求めて気持ち悪い、どうしてこうなってしまった? いつから彼女は狂っていった?

 母は通っている先生の本を十冊も購入していた。節約とはなんだったのか。彼女は言う、これは投資だからと。そしてその余剰の本は知り合いに配るらしい。まったく恥だよ、こんなんカルト信者と変わらない。彼女は夫が宗教にハマってその先で不倫されて家族が破綻した事を忘れてしまったのか? それとも同じ構図にあることに気付いていないのか? 先生の所に通って大金を落として、それのどこが節約なのだろう。最近はリボ払いも始めたらしい。それでお金が必要だからと言う彼女はもう終わりだと思う。お金が必要ならリボ払いなんて選択肢を選べない。長期的に事物を俯瞰できない典型的な視野狭窄。僕がリボ払いは辞めた方が良いと説得しようにも聞く耳をまるで持たず。だのにお金が必要だからと言うばかり。いや、言っていることとしている事が矛盾していますよ。ああ、人を相手にしているようには思えない。自分の信じる事以外を排除して閉じ篭もる、こうなったら人はもう終わりだね。救えない。彼女は将来的に借金を溜め込み、子供たちにお金を貸してくれ(援助してくれ)と懇願することになるかもしれない。そうなったらと思う、そうなったら僕はどうするのだろう。