万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

2022年に寄せて

 2022年が終わる。今年、僕は一体何が出来たのだろう、何を残せただろう。人生に意味を与えるようなことを成せただろうか。果たしてかな今年を振りかっても大した起伏もなくただただ平坦に続く道を惰性で歩んでいたようにしか思えない。新作を完成させる心積もりであったのだけれど遂に完成は出来ず、シナリオすら書き終えていないこの状況、ああ全く駄目な一年でした、全く駄目に過ごしてしまいました。後ろ向きなことは書きたくはないのだけれど、後ろを振り返っているのだから目線が下がるのは必然でどうして鬱々としてしまう。しかし今だけは何か佳かった記憶を呼び起こそうと考えて頭を捻っているのだけれど中々浮かばないものです。今年は一体何をしていたっけ、展示会も数回しか行かなかったし(毒展は閉幕する前に行かなくては)、本もそんなに数を読んだ覚えがない。いや、しかし緑の天幕は今年に読んだのだっけ? そろそろ記憶が怪しいものです。一年というのは短いようで存外長いもので今年の一月の記憶なぞ覚えておりません。しかし折角なので頭の体操や言語化も兼ねて今年佳かった作品でもあげていきませう。

 同人エロゲは今年月一本プレイしていた様子。DLsiteの購入履歴を見ると思い出してきた、確かにプレイしていた。20本近く購入していたくせに半分しか完走出来ていないのは反省すべき所だけれど、体験版をせずに製品版をするタイプの人間なので合わないものも多々あった。でも佳かった作品もにも幾つか出会えた。VERO FINALE Ⅰ BLOOD ROOT魔女は復讐の夜に、この三作品は特に記憶に残っている。VERO FINALE ⅠはRPGの皮を被ったノベルゲーム、BLOOD ROOTはメトロイドヴァニア、魔女は復讐の夜にはACT+RPGとそれぞれジャンルは別なのだがどれもシナリオあるいは世界観構築が素晴らしかった。特に後者二作品はゲームとして楽しかった。昨年はDemons Rootsという傑作が登場したのだけれど流石に匹敵する作品はなかったかなあ。VERO FINALEはシリーズものとなるらしいが完結すればもしくはという予感はする。お薦めです。また今年の同人エロゲであれば無視する訳にも行かない淫習のカクリヨ村〜メスバレ厳禁モラトリアム〜。こちらは出色の作品だと思うけれど僕にはあまり響かなかったかなあ。エロいのは間違いないです、飛び抜けてエロいです。

 商業エロゲには結局今年は手を出さなかった。すっかりエロゲから離れてしまったなあ。しかし予定ではサクラノ刻をプレイしているはずだった、延期さえしていなければと思うが予定調和のようなところがあるのでまあ別にいいです、発売してくれればそれで。

 同人ノベルゲームも思えばイナハシの魔女しかプレイしていない。やっぱり今年はインプットが少ない。プレイしたい作品はあるのだけれど(BLACK SHEEP TOWN とか)どうにも自分の中の何かが灰になってしまったようで気力が湧きません。虚無です。

 だけど小説なら多少は読んだ。基本的に海外文学ばかり読んでいるけれど。今年のベスト3を挙げるとすればリュドミラ・ウリツカヤ緑の天幕リチャード・パワーズ黄金虫変奏曲プラトーノフチェヴェングールかなあ。緑の天幕はドストエフスキーを彷彿とさせるポリフォニー小説で、重厚な大河ドラマだった。ウリツカヤは前から好きな作家だったのだけれど、彼女の作品の中でも本作は僕の好みにドンピシャだった。黄金虫変奏曲はとにかく圧倒的な作品だった。今年一番の小説です、皆さん読んで下さい。人間存在や愛の極限を探る螺旋状の細い糸、DNAを構成するATGCの四文字の暗号。糸が絡まり大きく複雑な塊が生まれるように、四文字の組み合わせの配列からタンパク質が合成されるように、この作品には単純さとその単純が組み合わさったさながら変奏曲のようなメロディーが響いている。その音は人間の根源に流れる生命の鼓動であるし、人々が触れあう際に生まれる愛の詩でもある。生きる人間を並外れた筆致で書き切った本作は僕にとって大切な作品の一つになった。チェヴェングールは憂鬱で憂鬱で美しくて美しくて虚しくてだけど愛に満ちた小説だった。ベケットが好きな人はハマると思う。僕は好きです。

 こうしてインプットを振り返ってみると案外佳い読書体験ができたなと思う。やっぱり黄金虫変奏曲が圧倒的で他が霞んでしまう。こんな作品を僕も書きたいなあ。結局今年中に新作、ドッペルゲンガーの子供Prequelを完成させることができなかったのは心残りで、来年の中旬までには完成させたいなあ。いや、完成させます。頑張れてないけれど、頑張ります。何度も書き直して、削って、書き足してを繰り返して徐々に完成は見えてきています。まだ全部を通して読んではいないのだけれど、それなりに佳い文章になっていると思う。僕は相変わらず起伏のある物語を書けてはいないのだけれど、この作品もまたそうで、空虚で憂鬱な鯨の声の様な作品になってくれている。

 2023年もよろしくお願いします。憂鬱なことばかりが起きる世界ですが共に生きていければと思います。