万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

2019/1/1

 目が覚めると、朝の9時。休みの日、特に年末年始は精神的にも緩和しているからか起きるのが遅くなる。かといって気分の良い目覚めでも、気分の悪い目覚めでもない、中庸な目覚めだった。風邪が長引いているのだろうか喉が依然と痛く、声も掠れている。新年早々病気とはなかなかどうして幸先の悪いことだろうか。まあ、これも風邪を引いているのに出掛けていたからなんだろうけれども。

 朝食に雑煮と栗きんとん食べて、風呂に入る。昨日沸かしたけど入らなかったから、追い焚きした風呂。細菌が繁殖したのだろう特有の、饐えた臭い。僕は顔を顰めながら肩まで浸かる。心なしか、皮膚がピリピリと痛んだ。水面には昨日入った家族に皮脂や髪の毛が浮かんでいて、汚らしく思った。この風呂に入っても、僕は綺麗にならないのではないだろうか。逆効果で、更に汚れてしまうのではないだろうか。そう思ってしまうと、この風呂場全体の汚れが気になり始める。壁のゴム部分の黒カビ、滑り止めの小さな凹凸のある床のその間に溜まった赤い汚れ……僕は急に掃除したくなり、風呂から上がり、床をブラシで擦り始める。執拗に、何度も、床を擦る。手が痛くなっても、擦り続ける。赤い汚れが、落ちていく。何か、僕に溜まっていた、穢のようなものが落ちていくと思った。しかし完全な白にはならない。元の、綺麗な色にはならない。僕は落胆しながらも床を擦り続けた。いつの間にか30分が過ぎていた。もう一度風呂に入って、シャワーを浴び、温まってから風呂場を後にした。

 火照った身体のせいか、それとも風邪のせいでのどが痛いからか、無性にアイスクリームが食べたくなった。冷凍庫を漁っても、何もない。仕方なくコンビニに向かった。外は正月ということもあり閑散としている。疎らな通行人のの中では親子が目立つ。初詣にでも行くのだろうか。子供が母親に笑いかけ、それに応えて母親も微笑む。幸せな光景だと思う。僕はその光景を直視できずに、早足で抜き去った。コンビニに入ると無機質な音が響いた。なぜかその音が僕を威圧しているように思った。この正月の朝という時間帯に迷惑だと言いたげに。店の中も閑散としている。店員もいなかった。バックにいるのだろうか。手早くアイスを見繕って、レジに向かう。いつの間にか店員がレジに立っていた。けだるげな顔で、僕を見つめている。ボソボソと何か呟いているが、聞き取れない。

「えっ?」

「だから、それ、買うんでしょ?」

「あ、ああ」

そこで僕が商品を持ったままでいることに気がついた。慌ててレジに置く。店員は再び聞き取れない言葉を呟いた。彼のネームプレートにある店長の文字を眺めながら、正月から働くだなんて大変だなあと思った。しかしこういう人がいるから、僕がアイスを買えるので、感謝しなければならないのだろうか。

 アイスは、森永のビスケットアイスを買った。僕のお気に入りのアイス。手軽に食べれるから好きだというのもあるのだけれど、手頃な値段なのにバニラビーンズが入っていることが好印象なのだ。バニラなら、バニラエッセンスではなくバニラビーンズだよね。僕はバニラアイスだというのに、ビーンズを使わないものはバニラアイスだと認めない主義だ。あのつぶつぶがあるからバニラなのであり、それ以外はバニラ風のなにかなのだと思う。

 ああ、そろそろ課題のレポートを書かなくてはならない。あと数日、冬休みが終わるまでに書かなければならないものがいくつかある。憂鬱だ。