万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

卯月の言葉

20230401, Sat

 先月の記事に風邪を引いたと残していたのだけれど、どうやらコロナだったらしい。酷く発熱し、咽喉は糜爛し散々な目に遭った。解熱してから数日経った今でも咳は止まらず、若干の倦怠感が身体の底で滞留し、おまけに嗅覚が失われた。好きなフランキンセンス精油の匂いも分からず、スパイスカレーも無臭に感じてしまう——クミンもカルダモンもシナモンも匂いがしない! 五感の内のたった一つが失われただけというのに絶望感が果てしない、後遺症の嗅覚障碍はやがて治っていくという話なのだけれど、それだって治るのに個人差があるという話で、はてさて僕は当分の間人生における愉しみを失ってしまった訳である。インセンスやアロマの香気に浸るだけでなく、食事ですらも満足に味わえなくなってしまった。今は甘いやしょっぱいといった純粋味覚でのみ感覚に落とし込んでいる食事という行為、酷く味気なくそしてその味覚だって信頼できないでいる。というのも僕の今の味覚はとてもではないけれど繊細に味わうことが出来ないでいて、まともに味がするのは強い甘さと強いしょっぱさだから。他の味もしないわけではないけれどどこか薄くてまるで世界から複数の色が失われてしまったようです。たったこれだけの感覚の欠落で解像度が失われるのはどうして人間が感覚の上に成り立っている生物だと思い知らされます。ただでさえ人生に於ける愉しみの少ない僕であるから、こうして奪われてどうして生きる意味を見出せましょう。それほどの絶望という訳で、仮に視力を失ってしまったらと思うとぞっとしまう。僕はきっと自殺するでしょう、自分を自分として保つことが出来なくて暗渠の中で生命に終わりを告げるでしょう。感覚の在る内に感覚を鋭利にして感じられるものを感じられることの重要さ……。今は堅揚げポテトのうすしおのしょっぱさとカルピスの甘さだけが味覚の楽しみです、早く改善してほしいと願うばかり。あるいはこれはあなたが僕に与えた試練なのでしょうか、それとも罰でしょうか。であれば受容するしかないのですか?

 

20230402, Sun

 一週間分の作業の遅れを取り戻さないと……

 

20230406, Thu

 少しづつだけれど嗅覚が戻ってきた。まだ十分ではないけれど安心する、不可逆的なものではなかった。アロマを焚いても匂いは少ししか感じ取れないけれど、直接精油を嗅げば匂いはするし、前は世界が無臭だったから大きな進歩だ。味覚もまだ鈍いけれど前よりはずっと恢復したし、一ヶ月もすれば完全に戻るんじゃないかなあ、戻って欲しい、戻って下さい、感覚の鈍い中で生きることは苦しい、あって当然のものが失われていると自分が自分でないようだから。

 

20230408, Sat

主は初めに死んだ、それから甦った、と言う者たちは誤っている。なぜなら、彼(主)は初めに甦り、それから死んだのであるから。誰であれ、初めに復活に達しなければ、死ぬことはないであろう。神は生きている。その者は死んでいたことであろう。

フィリポによる福音書 §21

彼らは復活はもう行われたと言って真理に迷い、ある人々の信仰をくつがえしている。

ティモテオへの第二の手紙 2-18

「人はまず死に、それから甦るであろう」という者たちは間違っている。もし、人が初めに、生きている間に復活を受けなければ、死んだときに何も受けないだろう

フィリポによる福音書 §90a

 復活祭を前にキリストに思いを馳せる。

 今日はブッダの誕生日だけど。

 

20230409, Sun

 キリスト、彼が肉とロゴス(言葉)が共有結合(コイノーニア)した存在であるとすればそれは一体どのような形態なのでしょう。僕には想像がつかないのです、全く人であり、全く神であるとは同居できる概念なのでしょうか。人から神に変じたものなのか、あるいは神から人へ変じたものなのか、どちらであれそれは完全に人と神が同位していることが否定されてしまう。有と無が同じでないように、人と神が同じでない。だけどキリスト、彼は神であり人であるとされている。まるで光と空気が同じ位相にあってしかし混じり合うことがないように。でもロゴスを湛えた肉としてあった彼は死に、そして復活してしまった!

 

20230412, Wed

 まるで受容体が欠損したかのような感覚。薄紗を隔てて世界がそこにあり、でも直接は感じ取れないもどかしさ。元に戻らない。他人の体に入ってしまったかのよう。

 

20230414, Fri

 インターネットの悪い所は人の内面を直視できてしまうことだし、人の死がより近くに見えることだし、価値の洪水の中で自分を見失ってしまうことだし、容易に依存できてしまうことだし、画面越しには他人の地獄が広がっていることを忘れてしまうことだよ。

 

20230416, Sun

 喜びの無い人生。せめて自分を繋留する重しが欲しい。人生を諦めないように引き留めてくれる大切なものを作りたい。でもできない。僕には何も無い。

 

20230418, Tue

 生きたくない。生きられない。死にたくない。死ねない。

 矛盾ばかりで嫌になる。平仄を合わせられない。千々に砕けてしまいそうです。裂けてしまいそうです。自分が中心から切り開かれてしまったかのよう。お腹の辺りを綴じ合わせるかのように強く抑えると少しほっとする。

 

20230422, Sat

 アンティークのオイルランプが欲しい。できればアラジン社の真鍮素材のやつ。

 

20230425, Tue

 気分が晴れない。ずっしりと重たいものが奥底に留まっている。

 

20230426, Wed

 世に出せるような進捗はまだないのですが、少しづつ進めています。夏コミに申し込んでいるので(受かる受からずに拘わらず)それに間に合うようには仕上げたいですね、僕は頑張ってくれているのだけれど、なかなかどうして終わりが見えない作業に嫌気が差す瞬間もあるわけで、でも手を動かなくては何も生み出せない。何も創造できない人間であるのはもう嫌なのです、自己満足で構わないから、痕跡を残したい。

 ちなみに新作はそんなに長くないけれど過去二作よりは分かりやすくて物語性のある作品になっていると思います。

 

20230427, Thu

 水産の修士号を持っているくらいには海の生き物が好きです。ペプチド毒のある生物だとなおいいです。