万年筆と神経毒

浸潤する言葉を。

長月の言葉

20230902, Sat

 時に僕は前向きなことを書くけれど、根は暗いままなのでいつだって希死念慮を抱いていて、今も全てを終わりにしたいと考えている。考えずにいられない。頭の中をぐるぐると周遊する生への諦念。水晶体が、銀鱗がまるで小魚のように光を跳ね返す、抵抗するみたいに。もう生きられない、と思うけれど、でも生きなくてはならないとも思う。理由は分からないけれどそれを探すことが今の僕の寄る辺になっている。外に対して興味は尽きないけれど、何からしていいかが分からない。どこへ踏み出せばいいのかを示す闇夜の灯火なんてものはない。亡羊の嘆というやつだね、僕はまったく自分の墓標を探している。

 

20230907, Thu

 先日ルームライトを買った、球体のやつ。美しいと思ったから、それ以上のことは考えなかった。ライトは明かりを灯していない時は鏡のように佇み、周囲を反射している。内部の電球が灯れば光は内部で反射を繰り返し、どこまでも続いているようにも見える。宇宙のようだと思う、僕は別に宇宙に思い入れがあるわけではないのだけれど、宇宙だと思うとどうして神秘を感じてしまう。どこまでも広がるあの暗い外界は想像の埒外にあってあらゆるものを包んでいる。それはとても恐ろしいことだと思うのと同時に敬虔な気持ちにもなる。僕は今日も光る球体に頭を垂れている。

 

20230910, Sun

 他者からの否定も肯定も拒絶も称揚もこの内面においては僅かばかりの波紋を現すばかり。病じみた諦念には効かず、今日も巻貝のように身体を、心を萎縮させる。外が恐ろしいと感じ、逃げ場がないと思う。動きにくい。重荷だ。どうすれば? どうしようもない。どうして? どうしても。殻を捨て去りたい、でも無理だ、柔らかい部分を晒せるほどの胆力を僕は持ち合わせていない。きっと直ぐに腐ってしまう。

 

20230914, Thu

 悲しみを越えた憂鬱、荒漠たる空虚、打ちのめされ慰めようのない生への諦念、このようなタスカーにも似た感情が僕の中の奥の方でじっと細く長い川のごとく流れている。まるでそれは髄液、中枢神経を覆う無色の液体。いつからこんなものが内在するようになったのだろう、この世に落ちてから既に、胎内で発生していた頃からあったのでしょうか。子供の頃の記憶はもうほとんど欠落していて、僅かな痛みとしてしか生起しないのだけれどある程度は幸福な子供時代だったと思う。しかし昔に目を向けようとするとどうしてだろう、悲しみと痛み、そして罪悪感ばかりがある。僕は佳く泣いていたっけ、それで泣き虫だと虐められた。でも泣くことの何が悪いのだろう、辛くて痛くて虚しい時に耐え忍べるほど子供は無感情ではない。齢二十六の今となってはもうすっかり涙を流さなくなってしまったなあ、小さな頃に流し過ぎて枯れたのかも知れないね、何に触れようとも涙に直結するような感情の動きは失われてしまった、悲しいことだね、すっかり無感動な人間になってしまった。最後に涙腺が緩みかけたのはアマツツミをプレイした時だっけ、結局涙は溢れなかったけれどもう少しで泣けたなあ。

 僕は小学三年生までは幸福な子供時代を送っていたと思う、やっぱり記憶は薄れてしまっているのだけれどそれほど悪いことは起きていなかったはずだから。悪くなければ幸せかといえばそうでないのかもしれないけれど、相対的に考えよう。僕の人生における重大な事件が起きて以降、多少なりとも精神は破損してしまったと思うし、続く事件の連続は——たとえ外野からすれば些細なことだとしても——思春期の子供を病ませるのには十分だった。一つ目の事件はほとんど父親の一存で決定された国内留学で、環境変化のストレスによって常に身体が不調を訴えていた。あえて詳細は書かないのだけれど尊厳は踏みにじられていたし、虐められてもいたものだからそれこそ涙が涸れるほど泣いていた。留学から家に戻ると家庭が半壊していた。父の宗教への耽溺と不倫。よく幸せとは何かを説く自家出版と思わしき本を読まされていたことを思い出す、ありがとうという言葉には魔力があってうんたらかんたら。人間の身体のその細胞一つ一つの中には宇宙が存在していてなんたらかんたら。瞑想やら信仰が高次の存在へと至る鍵とかなんとか。父と母はよく怒鳴り合っていて恐ろしかった僕はよく逃げていた、部屋の隅、ベッドの上で布団を被ってゲームボーイを起動した。ゲーム音を大きくし、外界からの邪魔が入り込まないような聖域を作り出していたっけ。その頃からなぜか監視されているような妄想が酷くなって眠られぬ夜を過ごすようになった。布団を被って、ゲームを起動することでやっとその眼から逃れられる。ぶるぶると震えながらもゲームをし続けた。思えばあの頃の暗い布団の中での情景が僕の根底にあるのかもしれないね、現実に打擲されフィクションに逃げ込むしかなかったあの瞬間、好きだったものが好きでなくなり嫌いになっていくあの感覚、僕から全てを奪い去っていく他者への恐怖、理解した振りで近付く人影、貼り付いた笑み、叫び、恫喝、泣き声、独りよがりの愛、ユートピア

 折りに触れて嫌な昔のことを思い出してしまう、僕のタスカーはあの時期に生まれてしまったのかも知れない。

 

20230917, Sun

 最近日記の更新に日が空いてしまう。(文章の練習も兼ねているので)できれば毎日、ほんの僅かでいいから書いていきたいとは思っているのだけれど忘れてしまったり、面倒に思って先回しにしたり、あるいは別のことに没頭していたりする。例えばここ数日はaffinityDesignerを弄るのにかかりきりだった。というのもそろそろ名刺をつくりたいと思っていて(新作のパッケージに拘ったように完全に自己満足で)、そのために自分を表すマークを作成したいと思ったから。サークルのマークは存在しているのだけれど、自分自身のはなかった。加えて制作用のソフトウェアを買っているのに余り使っていないのはもったいないと思ったからというのもある(そんなこと言うのなら月額1000円払っているフォトショの方を使うべきというのは分かっているのだけれど)。というわけでなんとかマークを作り、名刺の発注までした。作るなら箔押しにしたいなと前々から思っていたのでちょっと料金は嵩んだけれど採用した。しかしデザインというのは難しいものだね、僕の場合デザインに関してまったくの無知というものあって一つの作品を作るのに丸二日もかけてしまった。ですからこれを本業にするデザイナーとは未知の領域ですね、僕には到底出来そうにもない。感心するばかりです。僕に出来るのは精々図形を組み合わせてなんだかそれっぽくするだけで、そこに理論はありませんから。

 

20230918, Mon

 次回作の執筆はやはりというべきか遅々としてしか進んでいない、まだ予定の1/5にも満たなくて、そろそろ集中して書かなくてはと思う。一時間程度で読み終わるものにするつもりなので最終的には5万字くらいになるのかな、まだ8千字。初めて三人称で書いているというのもあってかなかなか難しい、僕はやはり一人称で書くことが性に合っているのだろうね、でも多少なりとも挑戦していかないと成長は見込めないと思うからなんとか書き上げたい。内容としても今までの作風とはこれまた変わっていてファンタジーというかSFというか、とかく現実的でない作品になります。スライムとなった少女との青い話です。

 

20230919, Tue

 僕は物書きの真似事をしているけれど別に文系出身ではないし——そもそも文系理系という括りは唾棄すべきだよ、下らない——、なんなら水産の修士号なんておよそ今の活動とは離れた肩書きを持っている。

 僕はどちらかといえば女性的なペンネームで活動しているけれど(割と誤解される)生物的にも精神的にも男だよ。

 世の中にある様々なカテゴライズが息苦しい、量的・質的に区分してラベルを付けて、管理するにはそれでいいのかもしれないけれど——実際その区別でおおいに助けられてはいるのも分かっている——分け切れないものもあるのではないですか。例えば赤と橙、橙と黄の境目に明確なものがないように。でも分別せずには安心できない事象が、人々がいる。その方が楽なのかもしれないけれど、分け切れずにどっちつかずとなってしまった者を無視し、あるいは無理やり片方に押し込んで個人を剥奪するのは佳いことなのでしょうか。冷たく束縛的なモダンタイムス。

 嗚呼、もう少し緩やかになりたいものです。

 

202300923, Sat

 アリスとテレスのまぼろし工場を観てきた、とても佳い作品だったと思う。少なくとも直感はそうなのだけれどまだ言語化するには至ってない。感動した時に訪れる後頭部の痺れはまるで異なるレセプターに結合してしまったかのように生起しなかったのだけれど、得られた充足感は確かに心が揺れ動いた時に発せられるものだった。物語の咀嚼はあともう一度観ないと難しい、僕は中盤に差し掛かるまで状況を上手く掴めずにいたから。それでも閉塞的な序盤から所々に挟まるエロティックなシーンもイツミとムツミの質感の異なる感情の発露も小さな世界の神と化した男の暴走も印象的で醜さと美しさが渾然としていたように思う。少なくとも僕の好きな作品だった。

 

20230927, Wed

 自分が無理。